Saris’s Log, 8 September 1613

1613年9月8日[予は駕籠に乗りて、(皇帝が宮廷を構ふる)駿河の城へ運ばれた。予の商人其の他の者は、予の前に賜物を有つて伴をした。城に入つて予は三つの跳橋を過ぎた。其の各に一隊の番兵が居る。甚だ立派な大石段の一對を登つたところで、予は二人の厳格で風采よき人に迎へられた。其の一人は皇帝の秘書官上野殿(本田上野介正純)で、他の一人は水師提督兵庫殿(向井兵庫頭政綱)で、両人は予を畳敷の立派な室へ案内した。予は畳の上に胡坐で座した。間もなく両人は予を間に挟んで謁見の間へ案内した。そこには皇帝の玉座があつて、彼等はそれに對し予に敬禮するやうにと頼んだ。玉座は金色の布で張られ、高さ五尺ばかり、背の方と両側は、大層華麗に装飾してあるが、頭上に天蓋はない。次に両人は以前彼らが座して居た場処へ帰つたが、そこに十五分位待つた処で、皇帝出御という聲が聞えた。次に彼等は立ち上り、予を間に挟んで、皇帝の居る室の戸の処に予を案内し、予に其の内へ入るやうに身振りをした。しかし彼等自身は其の中を覗くことはできなかった。予等の(イングランド)國王からの賜物と、(此の國の習慣に従って)予が自身からして皇帝に差探る賜物とが、皇帝が入り来る前に、前記の室内に、畳の上に整然と置かれてあつた。予は英國風の禮式に従つて、皇帝に進みより、予等の王の書翰を陛下に渡した。陛下はそれを手に 取つて、其の額の方へ頂き彼の背後に可なり隔たつて座つて居た通辯に命じて、船長アダムスをして予に對して、遠路ご苦労、よくこそ来られたどうぞ一両日休憩せられよ。其の間にイングランド國王への返翰ができるであらうと言はせられた。(p167,168)」